HOME
麻雀コラム
プロフィール
戦術書

Mahjong Column vol.2

戦術書における記述の粒度

麻雀の戦術書での記述を業務マニュアルとの対比で考えます。

定型業務は、データ入力や伝票整理、記帳、請求書作成など作業内容に一定のパターンがあってマニュアル化が可能な仕事で、具体的な作業や進行上の手順が一つ一つの作業ごとに決まっています。ですので、業務マニュアルは「この場合はこうする」と具体的かつ詳細に規定されます。

非定型業務は、事業計画の策定、新製品の企画・開発、対外的な交渉など個人の思考力、判断力、経験が要求されるクリエイティブな仕事です。業務の目指すべきゴール、満たすべき基準、守るべき規則、示すべき判断根拠や受けるべきレビュー等を記述する、粒度の粗いマニュアルになります。

実際の仕事は、程度の差はあれ、どちらの側面も持っている場合が多く、また従事者の能力/熟練度が違えば、求められる業務マニュアルの粒度も変わります。すなわち、業務従事者の能力/熟練度が高ければ業務マニュアルの粒度は粗く、能力/熟練度が低ければ粒度は細かく(能力が高ければ、強い統制(詳しい規定)がなくても、正しい判断ができ、むしろ、事前に文書化されている場合よりも、事業体の価値観や方針に鑑みて、その場に応じたよりよい判断も期待できる)という原則が成り立ちます。

さらには、経営戦略の策定や業務改善といった高度な創造性が求められるものについては、マニュアルではなくケーススタディを通じて学ぶということをします。

麻雀は、これら全ての側面を持ったゲームです。ですので、戦術本等にも、定型業務的な書き方のものと非定型業務的な書き方のもの、実戦の解説を通じたケーススタディ的なものもあります

定型業務型(ルールベース):著者の経験則や統計データあるいは理論的な期待値をもとに、判断要素の中から重要なものを取り出して「〇〇という条件なら△△する」というような判断のルール化・体系化を重視して書かれています。即効性があり、相対的にミスを減らすことができますが、状況によっては使えないケースがあり、適用条件を誤るとミスになります(ただし、適用条件を細かく設定するのでは、結局「非定型業務型」と同じことになります。数少ない例外ケースはあえて無視することでトータルでミス率を下げるという思想が根底にあります)。

非定型業務型(ナレッジベース):手選択するときの考え方を重視し、個別の局面ごとに、総合的に判断して手選択をする立場です。思考と推論によって問題を解決する方法論が戦術として書かれているため、どのような局面にも適用可能ですが、人間の思考能力には限界があるので、ミスが起きやすいという問題があります(プレイヤーの経験・能力に依存します)。また、実際の局面で適用できるようになるには、一般的に時間がかかります。

ケーススタディ型:実戦譜や実戦からとった局面を取り上げて、プレイヤーが何を考え、そして選択したかを記述するもの。そこから一般化できるセオリーを導いているものもあるが、上記の2タイプのような汎用性はありません。定型業務型でかかれたルールの適用限界を探ったり、非定型業務型で書かれた考え方を具体的な局面で練習したりするのに使えます。 実戦ではなく、創作された立体図をベースにしているものもあります。

エッセイ型:昭和の戦術書やベテラン雀士の著書に多い、勝負論や、実戦のある局面での思考を開陳するタイプで、戦術書というより麻雀をテーマにしたエッセイ集のようなもの。一般的な戦略・戦術を学ぶには向きませんが、麻雀への取り組み姿勢はどうあるべきか、勝負をどうとらえるべきか等、雀士としての著者の姿が見えてきます。

特殊な局面で使える小技や挙動情報の活かし方、対戦心理の取り扱い等、様々なネタを仕入れることができるのもこのタイプの本の楽しみです。

実際の戦術本は、ルールベース、ナレッジベース、ケーススタディおよびエッセイのすべての要素を含んでいるのが一般的です。どの要素が強いかの違いです。

*
Copyright (C) 猫二郎
All Rights Reserved.